「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第68話

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自キャラ別行動編(仮)
<エントの村の魔物?>



 「シャイナ様、この区画はどのようにしたら?」

 「ああ、これね。ミシェル、地図を出して説明してあげて」

 バハルス帝国の東の端。
 カロッサ子爵が統治する地域にあるエントの村にその日、村人たちに囲まれて色々と質問を受けるシャイナの姿があった。



 ああ、そんなこと私に聞かれても解らないってのに! いや、解ってるのよ、私が総責任者だからみんなが聞きに来ると言う事位は。

 でもねぇ、どうせならミシェルに直接聞いてくれればいいのに。
 さっきから全部彼女に説明を任せているんだから、直接聞けばいいと言う事とくらい解らないのかなぁ。

 次から次へと質問に訪れる村人たちを前に、私はホトホトくたびれ果てていた。

 元々私はこのような頭脳労働に向いてないって言うのに。
 ああ、あいしゃはちゃんと解ってるみたいなんだから変わってくれないかなぁ。

 そんな事を考えながら空いている畑の方に目を向けてみる。するとそこには、この村の子供たちと一緒に、作業をしている村の大人たちを眺めているあいしゃの姿があった。

 「あいしゃは気楽でいいなぁ」

 「仕方がありませんよ。あいしゃ様はまだ幼いのですし、ただ着いて来られただけでアルフィン様から何のご指示も頂いていないのですから」

 いや、あいしゃは外見こそ小さいけど頭は私よりいいし、実はちゃんとアルフィンからの指示も受けてるんだよ。
 こんなことを考えている私にそう語りかけてきたのは、大きな丸めがねが印象的なメイド服の女性だった。

 彼女の名はユカリ・タネシマ。

 魔女っ子メイド隊に所属しているけど、彼女のモデルになったキャラクターが農業系アニメのキャラだったおかげでファーマーレベルを持っていたから私のサポートとして選ばれたらしい。
 でもこの子、外見を見る限りそんなキャラに見えないのよね。

 腰までありそうなストレートの長い黒髪をツインの三つ編みにした、少したれ気味の優しそうな瞳をした童顔の女の子。
 先程も説明したように大きな丸めがねをしていて身長も150センチ台と一般的。
 立ち姿も力仕事とはまるで縁の無さそうな、どこかほんわかとした雰囲気なのでどちらかと言うと図書委員をしていそうな感じな子なのだ。

 指も細いし、体つきもマスターが好きなキャラにしては珍しいスレンダータイプだから農業とはかけ離れているような気がするのよね。

 「どうされました? シャイナ様。私の顔をじっと見つめていらっしゃいますが」

 「ああ、なんでもないよ。ただ、ユカリがファーマーレベルをもっていたのはちょっと意外だなぁと思ってね」

 疑問が頭にあったからか私がずっと彼女の顔を見つめていたので、そんな事を言われてしまったみたいね。
 そして私のそんな言葉に、彼女はちょっと不思議そうな顔で答えた。

 「そうですか? 私は一応魔女っ子メイド隊所属にはなっていますが、これでも普段は地下4階層の農場で働かせていただいているのですよ」

 そう言って笑うのだけど、その姿はやはり図書委員キャラにしか見えないんだよなぁ。

 でも確かにこの子は普段から農場や牧場で働いているとマスターから聞かされていたから、なりがどうであれ農業指導責任者と言う今の立場の私を補佐する能力と言う点で言えばミシェル以上に役に立つのだろうと思ってはいる。
 それに元がアニメキャラなのだから外見と能力がずれているなんて言うのはよくある話だし、こうなのも仕方がないのかもしれないと納得もしているけど。

 外見を好きに設定できるユグドラシルでは、見た目が小柄なマスコットキャラ系なのに実は強力系の前衛なんていうプレイヤーも普通に居たらしいしね。

 「そうなの。なら農業指導はお手の物なのね」

 「はい。私自身いつもやっていることですし、今回はアルフィン様が綿密な計画書類と資料を予め製作してくださっているので特に問題なく進める事ができると思います」

 そう自信ありげな顔で彼女は微笑む。その笑顔は自信に満ち溢れていて、私にはとても頼もしく見えた。
 何問題が発生した時はよろしくお願いね。
 この手の分野では私は本当に役立たずなんだから、その時は全部丸投げするから。

 「頼りにしてるわよ。私は責任者と言ってもこの手の事はまるで解らないから」

 「はい、任せてください」

 そんな会話をユカリとしていると、なにやら村人たちがいるほうからざわざわとした声が聞こえてきた。

 早速何事が問題が起こったのかと思ってそちらの方に目を向けると、村人がこちらに向かって血相を変えて走ってくるのが見える。

 う〜ん、これはやっぱり何かあったっぽいな。

 まぁ農業分野での問題ならユカリが何とかしてくれそうだからいいけどね。
 なんて考えていたんだけど、その走ってきた村人の口から出た言葉は私の予想からかけ離れてものだった。

 「シャイナ様、大変です! 魔物が、魔物が出ました」

 「えっ? 魔物?」

 どういう事? マスターの話ではこの辺りには野犬とかの動物は出るけど、モンスターはいないって話だったのに。
 それに魔物が出たと言う割には、走ってきた村人以外は騒ぎがあった場所にとどまっているみたいだけど?、

 「魔物が出たと言う割には他の人たちはあそこから離れないみたいだけど・・・もしかして何かされて動けなくなっているの?」

 「いえ、魔物は出たのですが、すぐ土の中に姿を消してしまったのです」

 えっ?
 土の中って、まさか!?

 「幸い私は少し離れた場所にいたのでこちらに逃げてくる事が出来たのですが、どこにその魔物が潜んでいるか解らず皆動くに動けない状態になっているのです。シャイナ様、お助けください!」

 「ちょっと待って。その魔物は土の中にいるのね? それで、その魔物ってどんな奴だったの?」

 かなり嫌な予感がするけど、とりあえず確認しないわけには行かないわよね。
 そこでその魔物の姿を聞いてみたんだけど、

 「はい。大ミミズです。身の丈が人より大きいミミズの魔物が出たのです」

 「ミミズの魔物・・・」

 やっぱり。

 いやな予感は当たっていたようで、私はその視線をあいしゃの方に向ける。
 するとそこには両手をあわせて謝るようなしぐさをするあいしゃの姿があった。


 ■


 少しだけ時間は遡る。

 わたし、あいしゃは村の子供たちと一緒に村人たちの作業を眺めていた。
 いや、正確にはそれだと間違っているかなぁ? この場合は眺めているフリをしていると言う方が正しいよねぇ。

 実は今ぁ、わたしはアルフィスから預かった念話で話が出来るマジックアイテムを使って地下にいるジャイアントワームのシミズくんに指示を出しているんだよねぇ。

 ボウドアの村では農業指導が始まる前に予めシミズくんたちが館近くの土壌改良を済ませていたしぃ、その土を村人たちに運ばせている間に他の場所での眷族を配置する作業が終わったからその心配は無かったんだけどぉ、エントの村はそんな準備をした土地も無いしぃ、私たちが到着してすぐに農業指導が始まってしまったから同時進行で眷属配置作業をやらなければいけない状況になってしまったの。

 それねぇ、長期間シミズくんをこの場にとどめると村人たちに見つかってしまうリスクも増えるからぁ、なるべく早く眷属をばら撒いて撤収させてしまおうと言う考えもあってぇ、こんな事をしていると言う訳なの。

 そこでぇ、村人たちが間違ってシミズクンを見つけたりしないように彼らが移動する先を私が確認してねぇ、シミズくんに教える作業をしていると言う訳なの。

 「シミズくん、そのはんいのけんぞくの配置は終わったぁ?」

 「はいは〜い、あいしゃさま。終わりましたよぉ。次はどこですかぁ?」

 「う〜ん、今いる場所の私から見て右がわに村人たちがいるから、先に左がわをおねがぁい」

 「はいは〜い、わっかりましたぁ」

 シミズくんは地中を移動しているから見咎められる心配は無いんだけどぉ、体が大きいせいで移動する時は当然振動とか土の盛り上がりが起こってしまうの。
 通り過ぎてしまえばその痕跡も魔法で消せるけどぉ、近くで見られたらごまかしようが無いからわたしが村人たちを見張って近くを通らないように注意しているの。

 本来なら深い位置を移動するから地上から移動している事が解るなんて事はありえないんだけどぉ、今回は生み出した眷族を畑に配置すると言う作業をしているからどうしても浅い位置を移動しなくてはいけないのよねぇ。
 そのせいで今シミズくんがどこにいるか知っているわたしがよく見るとぉ、遠くからでも土が動いているのが解る位だからこの指示は意外と大事だったりするのねぇ。

 「あいしゃちゃん、大人たちのお仕事見てるだけでたいくつじゃない?」

 「そうだよ、あっちであそぼうよ」

 そんなわたしの使命を知らないエントの村の子供たちはさっきからわたしを連れ出そうと何度も話しかけてきてるの。

 だからそのたびにぃ、

 「でもシャイナが働いてるしぃ、わたしだけあそびに行ったらわるいもん」

 「そっかぁ」

 そう言って誤魔化していたの。

 ところがぁ、今回は今までとちょっと様子が違ったのよねぇ。

 「ねぇ、それならここであそべばいいんじゃない? 離れてしまったらシャイナさまにわるいかもしれないけど、ここでならお仕事を見ているには変わらないし」

 「そうだよ、ここであそぼう!」

 何度も断られてその度大人たちの仕事をただ眺めると言う退屈な時間を繰り返していたこの子たち、何とかわたしを引っ張り出そうと相談した結果、こうしたらいいんじゃないかと言う考えに至ったらしいの。

 流石にこれには困ってしまったのぉ。だって、断る理由が思いつかなかったもの。

 「えっ!? でもぉ」

 「ここをはなれたらおこられるかもしれないけど、ここであそびながら見ていればだいじょうぶだよ」

 「そうそう、ぼくたちは見てなくてもおこられないから背中を向けていればいいし、あいしゃちゃんはずっと大人たちのほうをむいていればだいじょうぶだよ、きっと!」

 こんな事を言われてしまったらもうどうしようもないのよねぇ。
 でもだからと言ってちょっと目を離した隙に大人たちが移動してしまったら指示が遅れちゃうしぃ。

 ところが、そんな事を考えて子供たちに接していた時間自体が不味かったみたい。わたしがちょっと目を離している隙に視界の外に居た大人たちがいつの間にか移動をしていたみたいでぇ、

 ざわざわ。

 「あれ? なんかへんだよ」

 わたしと話していた子供たちの一人がわたしの視界の外、丁度シミズくんが作業をしている辺りを指差しながら声を上げたの。

 「えぇっ!?」

 「ほら、大人たちがなんかさわいでる」

 その言葉に慌てて視線を向けてみるとぉ、わたしの視界の外に居た大人たちがいつの間にかシミズくんがいる辺りに移動してなにやらあせったような顔をしながら固まっていたの。

 不味い不味い、もしかしてシミズくん、見つかっちゃった?

 これは正直大失態だよ。
 こう言う事が無いよう、わたしが監視役としてここに居たのにぃ。
 そしてそこから少し離れた位置に居た男の人が血相を変えてシャイナのほうに走っていったの。

 「シャイナ様、大変です! 魔物が、魔物が出ました」

 と叫びながら。

 うぅ〜どうしよう?


あとがきのような、言い訳のようなもの



 大変長い間休んでしまってすみませんでした。とりあえず今週から更新を再開します。
 ただ、なるべくするつもりではいるのですがもしかすると落とす週が出るかもしれません。
 今週のように短いものでもなるべく更新できるよう努力はするのでその時はご容赦ください。

 すみません、先程も書きましたがいつもに比べたら短いです。普通なら解決編まで書くのですが、どうしても時間が取れなかったもので。

 映画オーバーロードを見に行ったのも理由の一つだったりします。映画館の開館前に行ったにもかかわらず第一回上映が売り切れて第二回上映を見たために予定より3時間ほど帰るのが遅くなってしまったんですよ

 そういう理由なので次回はもう少し長く書けると思います。まぁ、今まで見たいに毎回6000文字以上必ず書くというのは維持できないかもしれませんが。(炊事洗濯など、今までやっていなかった作業が増えた為、今までのように時間が取れないんですよ)

 さて、新キャラのユカリですが、特にモデルはありません。
 最初はのうりんの林檎をモデルにしようかとも思って書き始めたのですが、少し面倒なキャラで動かしづらそうだったので完全オリジナルのキャラにしました。

 次にあいしゃですが、本来なら難しい漢字はひらがな表記にしているのですが、全てそうすると読みづらくなるんですよ。そこで苦肉の策として台詞だけは設定通りにして一人語り部分は漢字表記にする事にしました。


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